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銀行保証状(Bond)の文言と機能

H23.6.2 田中 庸介
  • 昨年5月、英国の控訴院(Court of Appeal)で、銀行が造船所の返金債務を保証する趣旨で、発注者に差し入れた保証状(Bond ないし Bank Guarantee)の効力を否定する判決が出ました(Rainy Sky v Kookmin Bank([2001] 1 Lloyd’s Rep 235))。

    これは、発注者が韓国の造船所と造船契約(「本件造船契約」)を結び、その分割代金の支払の前提として、造船所が倒産状態となった(insolvent)際に備えて、韓国の銀行から、造船所の返金債務を保証する趣旨で、その保証状(「本件保証状」)を入手した事例です。

    造船所が、韓国の倒産法における「Debt Work Out Procedure」という手続(日本でいう「特定調停」に似た制度と思われます。)を開始したため、発注者は、本件保証状に基づき、銀行に保証債務の履行を請求しましたが、銀行がこれを拒んだため、英国ロンドンで裁判が開始されました。

    第一審では、発注者が勝訴しましたが、第二審では、敗訴してしまいました。本件保証状と本件造船契約の文言によれば、本件での事象は本件保証状のカバーするところではないというのが、その理由です。

  • 本件では、裁判所が詳細な文言解釈を行いましたので、以下では、少し長くなりますが、本件保証状の文言を引用し、各々の条項の下に、私の抄訳を付すことにします。

    『a. 第1項
    「(1) We refer to the shipbuilding contract dated ○○ 2007 (as amended, varied or novated from time to time, the "Contract") entered into between ○○○○, Korea (the "Builder") and yourselves for the construction and delivery of a new-built "Vessel" to be delivered before Other terms and expressions used in this Bond shall have the same meaning as in the Contract, a copy of which has been provided to us.」
    (本件保証状中の文言は、本件造船契約と同一の意義を有する。)

    b. 第2項
    「(2) Pursuant to the terms of the Contract, you are entitled, upon your rejection of the Vessel in accordance with the terms of the Contract, your termination, cancellation or rescission of the Contract or upon a Total Loss of the Vessel, to repayment of the pre-delivery installments of the Contract Price paid by you prior to such termination or a Total Loss of the Vessel (as the case may be) and the value of the Buyer's Supplies delivered to the Shipyard (if any), together with interest thereon at the rate of seven per cent (7%) per annum (or ten per cent (10%) per annum in the case of a Total Loss of the Vessel) from the respective dates of payment by you of such installments to the date of remittance by telegraphic transfer of such refund.」
    (発注者(「you」)らによる本船の引取拒否、造船契約の解除・取消、または、本船の全損の場合、発注者らは、竣工前の既払金、および、買主負担の材料費の返還を受けることができる。)

    c. 第3項
    「(3) In consideration of your agreement to make the pre-delivery installments under the Contract and for other good and valuable consideration (the receipt and adequacy of which is hereby acknowledged), we hereby, as primary obligor, irrevocably and unconditionally undertake to pay to you, your successors and assigns, on your first written demand, all such sums due to you under the Contract (or such sums which would have been due to you but for any irregularity, illegality, invalidity or unenforceability in whole or in part of the Contract) PROVIDED THAT the total amount recoverable by you under this Bond shall not exceed US$[26,640,000] (United States Dollars Twenty Six Million, Six Hundred and Forty Thousand only) plus interest thereon at a rate of seven per cent (7%) per annum (or ten per cent (10%) per annum in the event of a Total Loss of the Vessel) from the respective dates of payment by you of such installments to the date of remittance by telegraphic transfer of such refund.」
    (銀行(「we」)は、発注者の請求により(「on demand」)、本件造船契約に基づき発注者が受けるべき「そのような金額(及びそれへの利息)の全て(「all such sum due to you」)」の支払いをなすことを引き受ける。但し、本状による銀行の支払いは、26,640,000米ドルを上回らない。)

    d. 第4項
    「(4) Payment by us under this Bond shall be made without any deduction or withholding and promptly upon receipt by us of a written demand (substantially in the form attached) signed by two of your directors stating that the Builder has failed to fulfill the terms and conditions of the Contract and as a result of such failure, the amount claimed is due to you and specifying in what respects the Builder has so failed and the amount claimed. Such claim and statement shall be accepted by us as evidence for the purposes of this Bond alone that the amount claimed is due to you under this Bond.」
    (造船所が本件造船契約の条項を履行をなさないこと、その結果、一定の金額が貴社に支払われるべきことが記載され、また、いかなる点において造船所の不履行があり、また、請求されるべき金額となることが特定された、貴社の2名の取締役の署名付きの書面による請求により、本保証状による支払いは行われる。)』

  • 第一審及び控訴院では、共に、銀行の保証債務の根拠となる文言は、上記第3項の「all such sums due to you under the Contract」であるとしました。しかしながら、第一審では、これは、同じ第3項(第1文)にある「pre-delivery installments(竣工引渡前の分割金)」を指すとされたのに対し、控訴審では、第2項の「pre-delivery installments」である、とされました。

    さらに、控訴審では、第2項では、そのような金額の返金は、本船の引取拒絶、発注者(Buyer)による解除・取消、及び、本船の全損の3つの場合に限定されていること、また、本件造船契約では、Debt Work Out Procedureに関する明文規定がなく、また、造船者の倒産の場合に関する規定(「BUILDER’S DEFAULT」)においても、造船者の返金義務は規定されているものの、発注者の解除権を規定していないことを理由として、本件では、本件保証状第2項に該当する場合ではないとして、銀行の債務を否定しました。

  • 上記の控訴院の判断は、文言解釈においても、「such sum」との文言を、同じ項ではなく、前の項まで飛び越えて、その意義を認定したこと、さらには、およそ保証状が必要なときにその効力が否定されることは、造船取引に大きな悪影響を与えることなど、不適切な認定を含むものと考えます。事実、本件控訴院の判断に対しては、上告がなされています。

  • しかしながら、上告が可能とはいえ、一度、本件保証状の効力が否定されることは、これを取得した発注者に大きな影響を及ぼすことでしょう。

    従いまして、本件控訴院の判断によれば、保証状等のドラフティングにおいて注意すべき点としては、まず、第3項にいう「such sum」の定義が明確でない点です。詳細な規定を置かないせいで、本件控訴院の判断のように、第2項にその実質的な意義があると判断され、いざという場合がこれに該当しないものとされてしまいました。

    さらに、本件保証状と本件造船契約共に、韓国での新しい倒産処理手続としての「Debt Work Out Procedure」という文言が明示されていませんでした。日本においても、契約中で契約相手方の財務状況が悪化した指標として、「破産が開始した場合」などの文言を置く場合が多いですが、たまに、「和議」などという、既に廃止された手続が挿入されているケースが見受けられます。無意味な規定は可能な限り排除し、他方、新たな法制度への配慮が必要といえるでしょう。

    また、本件造船契約においては、造船所の倒産の際に、発注者の解除権を認める規定自体が存在していなかったことも、問題と言えるでしょう。

  • 英国の裁判所では、本件控訴院の判断のように、当事者の認識いかんにかかわらず、文言のみから結論が導かれる場合があることを、改めて実感させられたケースです。

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