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労働紛争の解決手続

H21.10.13 名倉 大貴
  • はじめに
    私たちが日常生活を送るうえで直面する可能性が高い紛争の1つとして,労働紛争があります。昨今の不況に伴い,企業の規模を問わず,賃下げ,人員削減,内定取消し等を迫られるケースが増加しており,使用者側,労働者側を問わず,弁護士に対する労働関係の相談は多くなってきています。
    何らかの労働紛争に直面した場合,裁判で解決するというのももちろん1つの方法ですが,解決に数年かかってしまうこともありますし,弁護士等に支払う費用も多額になりがちで,当事者にとって負担が大きいのが実情です。現在では,労働紛争については,裁判以外に,紛争解決のためのよりソフトで当事者にとって負担の少ない制度がいくつか用意されています。今回は,それらの制度について簡単にご紹介したいと思います。
  • 個別労働紛争解決手続
    最初にご紹介したいのが,「個別労働紛争解決手続」という制度です。この制度は,(1)総合労働相談コーナーにおける相談受付,(2)都道府県労働局長による助言・指導,(3)紛争調整委員会によるあっせん,という3つの内容から成り立っています。
    (1) 総合労働相談コーナーにおける相談受付
    総合労働相談コーナーは,各都道府県の労働局や労働基準監督署,または主要都市の駅周辺ビル等に設置され,労働問題一般について,使用者,労働者を問わず,専門の相談員による相談を受け付けています。相談員は,相談内容に応じて一定のアドバイスをしたり,適切な関係行政機関を紹介する等のサービスを行います。また,この相談受付は,(2)や(3)の手続の入口としての役割も果たしています。
    (2) 都道府県労働局長による助言・指導
    (1)の相談において,相談者から申出があった場合には,紛争当事者に対し,都道府県労働局長による助言・指導が行われます。この助言・指導の対象は,解雇,配転・出向,昇格・昇級,賃下げ等の労働条件に関する紛争,募集・採用に関する紛争等であり,労働組合と使用者との間の紛争,労働者どうしの紛争,裁判で係争中の紛争等は対象になりません。
    (3) 紛争調整委員会によるあっせん
    (1)の相談や(2)の助言・指導に加えて,紛争当事者のいずれかの申請があった場合に,紛争調整委員会によるあっせんという手続が用意されています。「紛争調整委員会」とは,都道府県労働局に設置された,弁護士,大学教授等の学識経験者を構成員とする委員会であり,この委員会の委員の中から指名されたあっせん委員が紛争解決の仲介を行います。あっせん委員は,両当事者の主張や参考人の意見を聴取したうえ,解決案を提示するなどして,当事者間で一定の合意が成立するように努力します。専門家の意見を活かした迅速な解決が期待できるうえ,あっせん費用がかからない点も大きな魅力です。
    この制度の対象となる紛争は,(2)の助言・指導とほぼ同じですが,募集・採用に関する紛争が対象にならないとされていることには,注意が必要です。
  • 労働審判制度
    続いてご紹介する労働審判制度は,裁判所で労働紛争を解決するという意味では,裁判と共通するものの,以下のような特徴を有する手続です。
    労働審判は,一方当事者の申立てによって開始しますが,裁判官に加え,使用者側・労働者側双方の専門家で構成される「労働審判委員会」が紛争解決を主宰します。同委員会は,当事者双方の主張に基づいて,まずは調停による和解を試み,和解ができない場合には,具体的な事情をふまえた解決案を示す「審判」を行います。労働審判で扱う事件の対象は,さきほどの紛争調整委員会によるあっせんと同様であり,募集・採用に関する紛争は対象にならないとされています。
    この制度の最も大きな特徴は,原則として3回の期日で労働審判委員会による審理を終了することが予定されている点です。このため,多くの場合,申立てからか3〜4か月程度で一定の解決案が示されるため,裁判を行うよりはかなり早期の解決が期待できることになります。その反面として,複雑な争点を含む紛争については,労働審判にはなじまないと考えられています。
    労働審判の内容に異議がある当事者が,審判の送達または審判の告知があった日から2週間以内に異議を申し立てれば,そのまま裁判に移行することになります。
  • その他の解決手続
    そのほかにも,各地の労働基準監督署や都道府県労働委員会でも労働関係の相談を受け付けていますし,個別労働紛争解決手続や労働審判の対象にならない労働組合関係の紛争については,都道府県労働委員会において,労働関係調整法に基づく紛争解決制度が用意されています。
  • おわりに
    ご紹介した個別労働紛争解決手続や労働審判制度については,まだ新しい制度ではありますが,比較的迅速かつ安価での紛争解決が期待できますので,今後は徐々に利用が広がっていくことが見込まれています。
    とはいえ,企業の側から見れば,以上のような紛争解決制度があることを念頭に置きつつも,なるべくリスクの少ない労務管理や雇用調整を行うことにより,紛争を未然に防ぐという視点が重要であることは言うまでもありません。労務管理や雇用調整について判断に迷われた場合にも,ご遠慮なく当事務所までご相談ください。
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