ホーム > コラム > 企業法 > その他企業法 > 第94回 期限の利益喪失条項

コラム

コラム

第94回 期限の利益喪失条項

H24.6.26 名倉 大貴
  • 期限の利益喪失条項とは

    金銭消費貸借契約書や継続的な取引に関する契約書を見ていると,以下のような条項をよく目にします。

    第○条

    甲又は乙は,以下の各号に規定する事由に該当した場合には,相手方に対する一切の債務について当然に期限の利益を失い,直ちに債務を弁済しなければならない。

    (1)…,
    (2)…

    この条項は,「期限の利益喪失条項」と呼ばれる条項であり,契約書の終わりのほうに何気なく入っていることが多い条項ですが,契約書をチェックするうえでは注意を要する条項の1つです。

    契約書において,「○月○日までに本契約に基づく債務(の一部)を支払う」と定められていた場合,債務を支払う側としては,「○月○日までは債務を支払わなくてよい」ということとなり,それだけ債務の支払を猶予されていることになります。この債務の支払の猶予のことを,債務者にとっての「期限の利益」と呼びます。

    債務者に「期限の利益」がある場合,当然のことながら,債権者は,支払期限が到来する前に債務の支払を請求することはできません。しかし,債権者にとっては,債務者の経済状態が急激に悪化し,倒産状態に至る危険があるのに,支払期限まではただ手をこまねいて見ていることしかできないというのでは,債権回収の機会を逸してしまうことになりかねません。

    そこで,債権者としては,一定の事由が生じた場合に,この「期限の利益」を債務者が主張できなくなるような条項(これを「期限の利益喪失条項」といいます。)を契約書に入れておく必要が出てきます。民法上も,(1)債務者が破産手続開始の決定を受けたとき,(2)債務者が担保を滅失させ,損傷させ,又は減少させたとき,(3)債務者が担保を提供する義務を負う場合において,これを提供しないとき,をそれぞれ期限の利益の喪失事由として定めていますが(民法137条),実際には,契約書において期限の利益の喪失事由をより拡大して定めることが通常です。

    債務者の期限の利益を喪失させることができると,債権者としては,直ちに債務全額を債務者に請求できるようになるわけですが,それに伴い,担保を取得している場合には担保権を実行できるようになりますし,債務者に対して別の反対債務を負担している場合には当該債務と相殺することも可能になります。

  • 期限の利益喪失条項の内容

    期限の利益の喪失事由として契約書に記載される代表的な例は,以下のとおりです。

    (1) 債務者が倒産手続(破産手続,民事再生手続,会社更生手続,特別清算手続)に入った事実

    (2) 債務者の信用不安を窺わせる事実(支払停止・支払不能に陥ったとき,手形交換所から不渡処分または取引停止処分を受けたとき,第三者から差押・仮差押・仮処分を受けたとき等)

    (3) 当該契約その他の当事者間で締結される契約に違反した事実

    (4) その他(所在不明,解散等)

    これらの事由については,各社で定型的な内容とされていることが多いのですが,「和議」という民事再生手続の前身の手続が未だに期限の利益喪失事由として記載されている例もあり,法改正に伴う見直しも必要です。

    また,「合併」や「事業譲渡」が期限の利益喪失事由として定められている例もありますが,債務者側からすれば,将来的に合併や事業譲渡を行った場合に期限の利益喪失事由に該当してしまうことになりますので,これらの条項は契約交渉の段階で削っておくことが望ましいと考えます。

  • 当然喪失か,請求喪失か

    期限の利益喪失事由の定め方としては,(1)一定の事由が生じた場合は当然に期限の利益を喪失する(当然喪失),という定め方をする場合と,(2)一定の事由が生じた場合に,債権者の請求によって期限の利益を喪失する(請求喪失),という定め方をする場合の2通りがあります。

    一般的には,当該事由に該当したことが客観的に明確で,かついったん該当してしまうと回復が不可能な事由(倒産手続に入った場合等)については当然喪失事由とし,契約違反の事由や抽象的な事由(その他当事者間の信頼関係を損なう重大な事由が生じたとき等)については請求喪失事由とする場合が多いといえますが,この点については,当事者のニーズに合わせて組み立てる必要があります。

  • その他

    以上に加えて,債権者側から見れば,期限の利益喪失条項については,契約の解除条項や当然終了条項と連動して定めておく必要があります。期限の利益喪失事由に該当した場合には,契約の解除もできる(または契約が当然終了する)と定めておくことで,当該事由が発生した場合に債権全額の支払を請求できるようになるとともに,契約自体を終了させることができ,回収困難な債権が増大することを防ぐこともできるからです。

    以上のように,期限の利益喪失条項は,一般的な条項ではあるものの,第85回のコラムで紹介された「合意管轄条項」と同様,細かい配慮が必要となる条項ですので,契約書を作成したり,チェックしたりする際にはご注意いただければと思います。

このページの先頭へ