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第191回 民法714条1項に関するもうひとつの最高裁判例
−最高裁平成27年4月9日第一小法廷判決−

H28.6.3 今井 陽子
  • はじめに

    少し前の当コラム(189回「認知症患者の家族の監督責任に関する最高裁判例 −最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決−」執筆者・佐々木達耶弁護士)において,民法714条1項に関する最高裁判例をご紹介させて頂いたところですが,今回は未成年者の親の監督責任について判断した同条項に関するもうひとつの最高裁判例をご紹介させて頂きます。

    私事ながら,うちには娘が2人いますが,下の娘(4歳)はやんちゃで走り出したら止まらないため,外出すると「こらーっ,止まりなさい!」と追いかけるのが常で,いつか誰かにぶつかって大ケガをさせてしまうのではないかとヒヤヒヤしています。同様の心配を抱える親は世にあまたおられると思いますが,一般に,未成年者のうち自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていない者(概ね12歳前後が目安と言われています)が違法な加害行為により他人に損害を与えた場合は,民法712条により未成年者本人は賠償責任を負いませんが,民法714条1項により未成年者の監督義務者(親権者・後見人等)が原則として賠償責任を負うことになります。そして,同条項ただし書により,監督義務者が監督義務を怠らなかったこと等を主張立証できたときには例外的に責任を免れることができるとされていますが,これまでの裁判例においては,監督義務を尽くしたとして監督義務者の免責が認められるケースはかなり少ないものでした。

    このような中,今回ご紹介する下記最高裁判例は,民法714条1項の監督義務者の責任に関して,同条項ただし書による免責を最高裁として初めて明示的に認めた判決となります。

  • 事案の概要

    未成年者A(当時11歳)が,放課後,児童らに開放されている小学校校庭において友人らとサッカーをしていたところ,ゴールに向けて蹴ったボールが校門を超えて道路に転がり出て,そのボールを避けようとした通りがかりのバイク運転の男性B(当時85歳)が転倒して負傷し,その後死亡したという事案です。

  • 下級審の判断

    原審は,Aの親権者であるYらに民法714条1項に基づく監督義務者としての責任があると認め,Bの相続人であるXらの損害賠償請求を計1,184万円余りの限度で一部認容しました。

  • 最高裁の判断

    これに対し,最高裁は,以下の事情のもとでは,Aの親権者であるYらは,民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったと判断し,Yらの責任を否定しました。

    (1)   Aは,友人らとともに,放課後,児童らのために開放されていた小学校校庭において,使用可能な状態で設置されていたサッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていたのであり,このような行為自体は,校庭の日常的な使用方法として通常の行為である。

    (2)   ゴールにはネットが張られ,その後方には南門およびネットフェンスが設置され,これらと道路の間には幅約1.8メートルの側溝があったのであり,本件ゴールに向けてボールを蹴ったとしても,ボールが本件道路上に出ることが常態であったものとはみられない。

    (3)   Aが,殊更に本件道路に向けてボールを蹴ったなどの事情もうかがわれない。

    (4)   責任能力のない未成年者の親権者は,その直接的な監視下にない子の行動について,人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが,本件ゴールに向けたフリーキックの練習は,通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。また,親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきでない。

    (5)   Aの親権者である父母(Yら)は,危険な行為に及ばないよう日頃からAに通常のしつけをしており,Aの本件における行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情があったこともうかがわれない。

  • コメント

    この最高裁判決については,一般的に妥当な判断・結論であるとして肯定的に受け止められています。親の立場としても,未成年の子どもが起こした事故等について無制限に責任を負うわけではなく,責任を負う場合の一定の指針が最高裁によって明示されたことは有意義といえます。

    判断のポイントのひとつが「通常は人身に危険が及ぶような行為」か否かですが,例えばうちの次女のように人通りのある歩道をやみくもに走る行為はまさに人身に危険が及ぶような行為ということになるでしょうし,他方,保育園の園庭で友だちと一般的な遊戯(おにごっこやボール遊び)をする中で走ったりボールを投げる行為であれば通常は人身に危険が及ぶような行為ではないことになるでしょう(ただし,すぐ近くに遊戯に参加していない子どもがいる場合などに,その子どもたちにまったく気をつけることなく走り回ったりボールを投げる行為は人身に危険が及ぶような行為とされる可能性もあり,現実の行為へのあてはめはなかなか難しいものと思われます。)。

    もうひとつのポイントは,「・・通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきでない」という点ですが,どのような場合に特別の事情が認められるかは必ずしも明確とはいえず,本最高裁判決を踏まえた今後の判断の集積が待たれます。

    いずれにしても,親としてどんなに指導監督をしているつもりでも言うことをきかず無鉄砲な行動をしてしまう子どもがいることもまた事実であり(うちの次女もそうです・・),そのような子を持つ親としては,もちろんあきらめずに子に言い聞かせ続けることも必要ではありますが,他方で,子どもが過失により第三者に損害を与えた場合に備える賠償責任保険に加入するなどの対策をとることも重要かと思います。

【参考条文】

(責任能力)

第712条  未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

第713条  精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

(責任無能力者の監督義務者等の責任)

第714条  前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2  監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

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