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第146回 私傷病による解雇,休職

H25.12.25 芳田 栄二
  • 業務上傷病

    労働基準法上,従業員が業務上の傷病を負い,休業する場合,休業する期間およびその後の30日間はその労働者を解雇することはできないとされています(労働基準法第19条第1項)。
  • 私傷病による解雇

    (1) 解雇権濫用法理
    これに対し,従業員の傷病が業務上のものではなく,私傷病の場合,上記1のような法律上の制限はなく,就業規則の多くにも,「身体の障害により業務に堪えられない場合」が普通解雇事由として規定されていますが,この場合には,解雇権濫用法理による制約があります。

    (2) 労働者の職種や業務内容が限定されている場合
    上記解雇権濫用法理の適用の際には,一般に,労働者の職種や業務内容が限定されている場合とそうでない場合とで分けて検討されており,労働契約上,労働者の職種や業務内容が限定されている場合には,労働者が当該職種や業務内容が遂行できないときは,労働契約における「債務の本旨」に従った履行ができないわけですから,普通解雇しても,解雇権の濫用とはなりません。

    (3) 労働者の職種や業務内容が限定されていない場合
    これに対し,労働者の職種や業務内容が限定されていない場合,使用者は,配転命令権を有していますので,以下の最高裁判例のとおり,当該職種や業務内容以外の職種や業務への配転可能性を検討しなければなりません。
    「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては,現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても,その能力,経験,地位,当該企業の規模,業種,当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ,かつ,その提供を申し出ているならば,なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。」(最判平10.4.9・片山組事件)

    (4) 労務提供の不能の判断
    なお,上記の前提として,実際に労務提供が不能か否かの判断は,基本的に担当する職務内容との関係において,医学的観点も考慮して判断されることになり,この点に関する裁判例が多数下されています。

  • 私傷病による休職

    (1) 休職制度
    民間企業における休職制度は,法令に基づくものではなく,就業規則・労働協約により定められるもので,内容も多種多様ですが,一般的には,ある従業員について労務に従事させることが不可能または不適当な事由が生じたときに,使用者が労働契約関係そのものは維持しながら,労務への従事を免除または禁止することを言います。
    休職制度の種類も多種多様ですが,主なものとしては,傷病休職,事故欠勤休職,起訴休職があり,私傷病との関係では,傷病休職が問題となります。

    (2) 傷病休職
    傷病休職は,業務外の傷病による欠勤が一定期間に及んだときに行われるもので,期間内に回復し就労可能となれば,休職は終了して復職となり,回復せず休職期間満了となれば,自然退職または解雇となるものです。

    ア 本来,労働契約からすれば,私傷病により,就労が不能となれば,労働者は,労働契約上の労務提供義務を履行することができないため,上記の2記載のとおり,労働契約の解約事由(普通解雇)となるところ,傷病休職制度は,休職期間中は解雇を猶予するための制度です。

    イ 傷病休職期間の満了
    上記の通り,傷病休職期間の満了までに,傷病が治癒すれば復職となりますが,治癒しなければ,就業規則等に基づき解雇または自動退職とする取扱がなされています。

    (ア) 休職期間の満了に伴い解雇とする取扱の場合には,解雇事由として休職期間の満了を就業規則等に明記するほか,解雇予告など法律上の手続が必要となります。
    この場合にも解雇権濫用法理の適用がありますが,休職期間の満了をもって解雇する場合には,解雇権濫用とされる場合には,少ないと思われます。

    (イ) 自動退職とする取扱の場合には,期間満了に伴い,何ら手続なく,雇用契約は終了しますが,無用な紛争を回避するため,期間満了までに,期間満了に伴い自動退職する旨を労働者に通知することが望ましいと思われます。
    なお,自動退職に関しては,以下の裁判例で合理性を有するとされており,通達においても,期間満了の翌日など一定の日に労働契約が自動終了することを就業規則に定めて明示し,かつ,その取り扱いについて規則どおり実施し,例外的な運用や裁量がなされていないならば,終期到来による労働契約の終了となり解雇の問題は生じないとされています(昭27.7.25基収1628号)。
    「休職期間満了日になお休職事由が消滅していない場合に,期間満了によって当然に復職となったと解した上で改めて使用者が当該従業員を解雇するという迂遠な手続きを回避するものとして合理性を有する」(東京地判昭59.1.27・エールフランス事件)

    ウ 治癒と復職
    上記のとおり,傷病休職の場合,傷病が回復すれば,復職となりますが,どのような判断の下,傷病からの回復である「治癒」がなされたかが問題となります。

    (ア) 「治癒」の意義については,「従前の職務を通常の程度行なえる健康状態に復したとき」とされ,その判断においては,医師の診断書が重要となります。医師の診断書を無視して自動退職または解雇としてすることは,後にその判断を否定されるリスクが非常に高いと思われます。
    労働者の主治医と産業医の診断が食い違い,主治医の診断書によれば「治癒」または「復職可」とされているのに,産業医の診断がそうでない場合,判断は慎重に行うべきですが,産業医は,当該職場の状況等を把握した上での診断ですから,一般には,産業医の診断を尊重すべきと思われます。

    (イ) また,休職期間満了後の解雇または自動退職の根拠は,労働者が「債務の本旨」に従った労務提供義務を履行できない点にありますから,労働契約上,労働者の職種や業務内容が限定されていない場合には,「治癒」の判断においても,他の業務への配転の現実的可能性の有無を検討することが義務づけられる場合もあると思われます。

    エ リハビリ出勤

    (ア) 実務上,休職期間からの復職に際し,復職を円滑に行う目的や休職期間満了をもって一刀両断に解雇または自動退職とせずに柔軟に復職の可否を判断するために,リハビリ出勤の制度がとられることがあります。
    特に精神疾患による休職の場合,その復職の可否の判断は,傷病の診断のための画像等の客観的資料がなく,困難となる場合が多いため,資料が不十分にも関わらず,解雇や自動退職を強行した場合,訴訟リスクが大きくなる場合も考えられますが,リハビリ出勤は,そのような訴訟リスクを避けるためにも,有用と思われます。

    (イ) リハビリ出勤を採用する場合,就業規則上は,リハビリ出勤の制度の発動について,あまりに細かく就業規則で定めてしまうと,ケースごとの使い勝手が悪くなるため,就業規則では,リハビリ出勤の制度を簡単に規定するに留め,ケースに応じて対応していく方が望ましいと思われます。

    (ウ) ただし,リハビリ出勤がうまくいかなかった場合に,再度休職に戻した後の休職期間やリハビリ出勤期間中の欠勤期間等を休職期間に通算する等の規定について明記しておく必要があり,この点の規定が曖昧だと,逆に後の訴訟リスクが高くなってしまうと思われます。
    また,リハビリ出勤については,その期間を休職とするか勤務扱いとするか,労災・通勤途上災害をいかに扱うか,期間をどうするか等の問題があるため,就業規則の策定の際には,十分検討することが必要です。

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