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第141回 生命保険金は相続の対象になるか?

H25.10.2 林 智子
  • 死亡保険金請求権は相続財産に含まれるか?

    例えば,夫A,妻B,子C,子Dの四人家族で,夫Aが,保険会社との間で,「Aが保険料を支払い,Aが死亡した場合には,保険会社は,相続人の一人である妻Bに対して死亡保険金を支払う。」という内容の生命保険契約を締結した場合,Aが死亡した場合に発生する「死亡保険金請求権」は,Aの「相続財産」に含まれるのでしょうか?当該保険料は,Aが生前に支払っており,実質的経済的にはその対価として,死亡保険金が支払われるのですから,Aの「相続財産」に含まれるように思えます。

    しかし,この点については,最高裁昭和40年2月2日判決が,「…保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には,右請求権は,保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり,被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているものといわなければならない。」と判示し,死亡保険金請求権は,妻B固有の財産である(夫Aの相続財産ではない)と判断しています。

  • 死亡保険金請求権は遺留分減殺の対象となるか?

    また,最高裁平成14年11月5日判決は,生命保険の契約者(被相続人)が死亡保険金の受取人を相続人から相続人以外の第三者に変更したという事例において,死亡保険金請求権は,相続財産を構成するものではなく,実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることもできないから,上記変更行為は民法1031条に規定する遺贈又は贈与にあたるものではなく,これに準ずるものともいえないと判示し,遺留分減殺の対象にならないことを明らかにしました。

  • 死亡保険金請求権を相続財産の計算に加える方法はないか?

    (1)  以上のように最高裁が判断したところからすれば,妻Bが死亡保険金受取人に指定された場合,子C,Dは,もうどうすることもできないのでしょうか?例えば,Aの相続財産が2,000万円あり,それとは別に,Bを受取人とする死亡保険金請求権が5,000万円もある場合,Aの死亡によって,Bは6,000万円(相続分1,000万円[2,000万円×法定相続分2分の1]+死亡保険金請求権5,000万円)を取得し,C,Dは各500万円[2,000万円×法定相続分4分の1]しか取得しないことになります。このことは相続人が子どもたちだけの場合でも同じことです。つまり,Aの相続人が子C,Dのみであり,Cだけが,死亡保険金受取人として指定されている場合,Cは6,000万円取得しますが(相続分1,000万円[2,000万円×法定相続分2分の1]+死亡保険金請求権5,000万円),Dは1,000万円[2,000万円×法定相続分2分の1]しか取得しないことになり,不公平感はより鮮明になるかもしれません。相続人間に争いがない場合には特に問題ありませんが,争いがある場合には,このことが大きな問題となってきます。

    (2)  この点について,最高裁平成16年10月29日判決は,「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が…著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,…当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である」と判示し,場合によっては死亡保険金請求権を相続財産の算定に加えることができる旨判断しました。

    上記判例に出てきた「特別受益」の持戻しとは,共同相続人の中に,被相続人から遺贈を受けたり,生前贈与を受けたりした者がいる場合(特別受益)に,共同相続人間の公平を図るために,当該受益を相続分の前渡しとみて,相続財産に加算(持戻し)して相続分を算定する制度です(民法903条)。例えば,上記四人家族の事例で,子Cが結婚する際に,Aから持参金として1,000万円をもらっていた場合が特別受益に当たります。

    そして,上記判例は,「特段の事情」があるか否かの判断基準について,「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべき」と判示しています。

    (3)  したがって,相続財産算定において,死亡保険金請求権を加算できるか否かは,ケースバイケースということになりますが,金額の比較という意味だけで紹介しますと,死亡保険金額が約5,100万円あり,純粋な相続財産が約8,400万円の事案で,特別受益に準ずるものとして持戻しの対象となると判断された裁判例(名古屋高裁平成18年3月27日決定)があります。

  • 以上のように,死亡保険金請求権が妻B(または子C)に支払われるといった場合,場合によっては,子C,D(または子D)は,当該死亡保険金請求権は特別受益に準ずると主張して,Aの相続財産の計算に加算させることができるかもしれません。相続人間での不公平さを感じた場合には,検討してみてはいかがでしょうか。
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