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第126回 一票の格差 〜司法の怒り:議員定数訴訟違憲・無効判決〜

H25.4.11 幸寺 覚
  • 裁判所が怒った?

    ついに裁判所が怒った,と言ってもいいでしょう。議員定数訴訟で違憲さらに選挙無効の判決が出ました。今までは,選挙は違憲又は違憲状態であると言うに留まり,選挙自体を無効とまではしませんでしたが,ついに選挙が違憲で無効とまで裁判所が判決しました。今まで,裁判所は立法に一定の敬意を払って,法律改正による是正を促しておりましたが,ついに裁判所の堪忍袋の緒が切れたというところでしょうか。

  • 一票の格差

    衆議院や参議院の選挙区ごとの議員1人あたりの有権者数の差が広がると,投票価値が不平等になり,憲法14条で定める「法の下の平等」に反するという問題が発生します。この一票の格差を理由に,選挙は違憲・無効だと有権者が訴える訴訟が数多く提起されてきました。すなわち,たとえば有権者6万人の選挙区と2万人の選挙区でいずれも定数1人とすると,有権者一票の効果の違いが生じることになり,実際3万票取っても落選し,1万票取って当選することがありますので,これを不平等と言うことになります。

  • 従来の判例(違憲・違憲状態)

    最高裁は,これまで一票の格差について,概ね衆議院は3倍以内,参議院は6倍以内を合憲の基準として,それを超えたら「違憲」又は「違憲状態」という判決を出してきました。衆議院と参議院が違うのは,参議院は地域代表的な性格を持つので,国会に広い裁量権を認めたことによります。但し,最高裁は,違憲とした場合でも,選挙を無効にしてしまうと,議員は身分を失い再度選挙しなければならないことになって,混乱が生じるという公益を考慮して「事情判決」の法理と呼ばれる理論を援用して,選挙自体は有効と判断してきたのです。

    アメリカでは,1.007倍の格差で違憲と判断されたことが有るということですので,それと比較すると,格差の限界について,日本はまだまだ国会に広い裁量を認めすぎではないかという批判もあるでしょう。

  • ついに選挙を無効とする判決

    選挙は違憲だが,選挙自体は有効という判決に慣れてきましたが,平成25年3月25日,広島高等裁判所で,一票の格差が最大2.43倍となった昨年12月の衆院選をめぐり,選挙の無効を求めた訴訟において,歴史上初めて,広島1,2区において違憲であり,当該選挙区の選挙の効力を無効とする判決が出たのです。これは,裁判所は,今までは国会の努力により議員定数の不均衡が解消されることを期待して,国会の自律性を尊重して違憲の宣言に留めていましたが,今回は当選無効の判決により政治的混乱が生じるとしても,議員定数不均衡の状態をこれ以上放置するわけにはいかない,裁判所としてももう我慢の限界を超えたと判断したのだと思われます。もっとも,現在も議員定数不均衡の是正の努力がなされていることにかんがみて,今すぐ当選した議員の当選を無効とするのではなく,衆院選挙区画定審議会が改定作業を開始してから1年経過するのを待って,無効の効力が発生するとしたのです。まだ少し,国会への配慮が残った形となっています。

    しかし,同月26日の広島高裁岡山支部の判決は,岡山2区について,将来無効ではなく直ちに無効とするというものです。従って,判決が確定すれば選挙無効が確定し,議員の当選が取り消されて選挙がやり直されるということになりますので,より国会には厳しい判決となりました。ただ,実際には,上告され無効にはなりません。

  • 国会の怠慢

    国会議員は,いったん選挙で当選してしまえば,次も同じ選挙区で受かりたいという利益と期待が生じますので,自分達に不利益になる改正はなかなか進まず,是正しないまま選挙が行われてきたのが実情です。これは,国会の怠慢であり主権者である国民の一票の価値を軽視する行為であって,司法を軽視した対応であると受け止められるのもごく当然であると思われます。この厳しいとは言えごく当たり前の司法権の独立を貫いたと言える判決を,いまだ「立法府への侵害だ」なんて批判する議員がいることには驚くばかりです。

  • ようやく改正に着手

    いよいよ,国会もお尻に火が付いたことでしょうから,真剣に定数是正を実行してもらわねばなりません。早速,政府与党は,小選挙区の「0増5減」を含む公職選挙法改正を今国会に提出,早期成立を目指す方針のようです。格差をぎりぎり容認されるであろう2倍以内に収めればいいという改正であり内容が不十分であるという批判もあり,さらに遅きに失しますが,今度こそ改正されることは期待できそうです。法の下の平等に関わる問題ですので,もっと有権者である国民が関心を持つべきなのでしょう。

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